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「キリくんのアクセサリーは、ただの飾りですの?」

唐突に掛けられた言葉に、オレは一瞬固まった。生徒会室の定位置、斜め向かいの席で丹生がいつものようにニコニコ笑っている。
その言葉に乗ったように、浅雛と宇佐見の目もきらりと光った気がした。

「確かにそれは、興味があるな」
「聞いてみたいですとお伝えください」
三人から注視されて、妙に居心地が悪い。

「別に、どうでもいいだろうが」
オレはぼそっと言い放ってそっぽを向いた。女どもの質問にわざわざ答えてやる義理はないはずだ。

「ボクも興味があるな」
だが、会長が乞われるのならば話は別だった。むしろ進んでお話させていただきたいと思う。
「はいっ、実は全て忍道具なんです!」
会長の机に馳せ参じ、いくつかの飾りを外して並べた。

「耳飾りは少量の火薬が仕込んでありまして、煙幕を作ることができます。この部分を開くとツメが出て、マキビシとして使用することも可能です」
「耳元に火薬があって大丈夫なのか!」
驚いた顔をしている会長に、オレは深く頷いてみせた。

「目くらまし程度の煙幕ですから、火種を近づけなければ平気です。それに火薬の扱いは慣れてますから」
「そうなのか……。他には、どんな?」
仰った通り、会長は興味津々といった様子でオレを促す。ついでに女子たちも聞いているが、まあいいだろう。

「これはいつも腰につけているチェーンですが、実は中にワイヤーを仕込んであります。長く伸ばすことができるので、ロープの代わりに重宝します」
「重宝とはどんな風ですかとお伝えください」
普段はあまり話さない宇佐見まで興味を示しているのは珍しい。出しゃばりたいわけではないが、みんなが忍に関心を向けてくれるのは喜ばしい。
「これは、縛ったりぶら下がったり巻き付けたり色々と」
「では、ネックレスはどのように?」
「これはだな……」
いつの間にか、女子たちから質問攻めにあっていた。ハッと気付くと会長はニコニコとオレたちを見守ってくれている。会長の質問に答えていたはずなのに、なんたる失態。

「スイマセン、会長とお話していたはずでしたのに」
「いや、皆で盛り上がるのはいいことだ。でもキリ、その道具は普段使っているのを見ないけれど、どうしてだろう?」
「これは、緊急用ですから」
会長はそんなところまで気付いてくれていた。そう、装飾具を模した道具は敵を欺く為のもの。普段から手の内を全て晒しているわけにはいかない。
「そうか。だからキリはそんなに色々身につけているんだな」

うんうん、と頷いている会長の様子にオレはハッとする。
もしかして、会長はオレが装飾具をジャラジャラ身につけているのを疎ましく思ったりしているのだろうか。もちろん普段から音などさせてはいないけれど、それでも目の端で揺れる物は気に掛かるという心理かもしれないし……!

「……あの、会長は、オレの外見や装飾具の多さを疎ましく思ったり、とか……」
情けないとは思いながら、多少声が小さくなる。

「うむ、ボクは規律正しい服装の方を好むし学校に必要のない物は持つべきではないと考えている。けれども、キリだとあまり気にならない……なぜだろうな?」
そう聞いて、少しだけ安堵した。でもあくまで「あまり」だそうだから楽観もしていられない。
「会長の為ならば外しても構いません!」
「あ、いや、そこまでしなくてもいいと思う。キリが色々身につけているのを見慣れているから、むしろ無くなったら違和感を覚えそうだ。それだけ見慣れたということかもしれないな」
会長は明るく笑ってくれて、オレの情けなさまで吹き飛ばしてくれる。本当に、会長は輝く太陽のような方だ。その明るさに照らされて、オレも共に明るくいられる。

「キリが側に居ることが自然すぎるのと一緒だな」
「そのお言葉、有り難き幸せ」
胸を熱くするお言葉に感激しつつも、何気なくすごい言葉だと思う。聞いていた女子たちがどう思ったかと多少気に掛かったが、わざわざ聞くのもやぶ蛇に思えて黙っていた。

「キリくんはまるで火薬庫のようだな」
「火薬庫とはなんだ、量的には花火くらいだぞ」
「あら、では火薬類取り扱い保安責任者の資格は必要ないのでしょうか?」
幸い、話題は別の方へ流れてくれた。他愛のないやり取りをしているオレたちを、会長が微笑んで眺めている。いつもの生徒会の午後は、穏やかに和やかに流れていく。


会長のお考えをまたひとつ確認することができた。この午後はオレにとって実に大きい収穫を得られたのだった。










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